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東京高等裁判所 昭和54年(ネ)1134号 判決

二 本件配転命令が控訴人と被控訴人との間の雇傭契約に違反し無効であるとの主張(請求原因四の(一))について

控訴人が看護婦として被控訴人に雇傭されたものであること、かねてから被控訴人の附属病院に中材室が置かれていること及び中材室勤務の職員が患者との直接の接触がないことは当事者間に争いがなく、≪証拠≫によると、次の事実が認められる。

一般に、総合病院における「中央滅菌材料室」なる名称の部門は、院内感染の防止、医療器械や衛生材料の正確な滅菌及び医療の経済的効率を図ることを目的として置かれているものであるが、病院の大規模化、医療器械材料や滅菌技術の進歩に伴い、かって病院内の各病棟、外来、手術室等の各単位部門ごとにそこの看護婦によって行われていた各種医療器械材料を滅菌し、これを保管、供給する作業を中央でまとめて行うようになったものである。したがって、そこでは、各種医療器材の滅菌、格納のほか、病院各部門からの定時、臨時の請求に応じて的確にそれらを提供することを業務内容とするもので、その業務内容や運営は「看護学」や「看護管理」の研究対象とされ、病院内における位置づけも、その組織を診療部門、看護部門及び事務部門の三部門に分けた場合、「中央滅菌材料室」は総婦長の下に統轄されるその看護部門に属することとされているのが普通であり、運営も看護婦の責任とされている。もっとも、業務の性質上患者を直接に看護する部門ではないことのほか、滅菌設備、技術の進歩により、滅菌業務の対象となる医療器材の多様化等にかかわらず、必ずしも正規の看護婦が手を下さなくてもよい技術的作業の量が病院内の他の看護部門におけるよりも著るしく多くなっている。しかし「中央滅菌材料室」なる部門の所轄業務が右認定のようなものである以上、配属職員の作業内容にそれなりの特殊性があるとしても、そこにおける業務が円滑に行われていることと作業がそれぞれの医療看護目的に沿って的確に行われていることとが、当該病院全体の毎日の医療活動に欠くことができないものであるのみならず、そこにおける過誤は直接医療や看護の過誤につながることになるのであるから、そこで働く職員ことに看護婦の責任が他の部門における看護婦のそれよりも軽いものであるとは認め難く、少なくともそこに配置された看護婦は、病棟、外来等の各部門の医療や看護の実際に通じ、各部門との間で授受される各種医療器材の意義、用途を理解していること、及び患者に対し他の部門に配属された看護婦に劣らぬ責任感を有していることが望ましいものと認められる。

一方、被控訴人附属病院の中材室についてみるに、その設置目的、組織系統、所管業務等は右一般の「中央滅菌材料室」におけるそれらとことさら異なるところはないと認められ、さらに、前掲各証拠のほか、当審における≪証拠≫によれば、同中材室は昭和二七年にごく小規模のものとして設けられ、次第に規模が拡げられてきたものであるか、近年における人員は、専任婦長、主任看護婦各一名、看護助手等の看護補助員一二人位及び外部の会社から派遣された者三人位のほか、看護婦(婦長及び主任以外)又は准看護婦が配属されてきており、昭和四五年四月から昭和四六年八月までは看護婦及び准看護婦各一名が、翌月から昭和四九年四月までは看護婦一名が、同年五月から昭和五〇年九月までは准看護婦二名(一部の月では一名)が、同年一〇月から本件配転命令までは准看護婦一名(一部の月ではそのほかに看護婦一名)が配属されていた。中材室でも婦長が看護職員の勤務状況、業務の進行状況等を把握し、各職員を指導、監督することになっているが、学生に対する講義等のため不在であることも多く、その場合には主任看護婦が婦長に代って管理、監督業務に携っていた。中材室の主たる業務である医療器材の滅菌、保管等の作業自体は看護助手があたっているが、看護婦又は准看護婦は、それらの作業のほか、各職員の指導、器材の供給計画等の作成、主任不在の場合などの職員の監督等の業務にあたっており、また、医療器材交換等のため、一日に二、三回は職務上他部門の看護婦等との接触の機会を有していた。以上の経緯、事実が認め得られ、この認定を覆えすに足りる資料はない。

そして、以上のような中村室の沿革、所管事務内容等に照せば、中材室には看護婦業務があることが認められるほか、被控訴人附属病院以外の総合病院にあっても、婦長又は主任以外の看護婦をその「中央滅菌材料室」に配置することが特約なしに看護婦の雇傭契約上別段の取扱いを要する事項とされている事跡が認められないところからすると、被控訴人附属病院において、看護婦として雇傭された者を中材室に配置することが、控訴人主張のような職種変更に係るものとは認め難い。また、これは、控訴人のようにすでに四年間にわたり病院の他の部門において看護婦の業務に従事してきた者の場合であっても、同様である。この場合、病院ならずとも、多くの職域において、職員が他の部門に配置換えになった場合、当初その職場において輩下に相当する者からも仕事の説明を受け、これを学ぶことが多々あると推認されるので、控訴人が中材室に勤務するようになってから、具体的な仕事の説明をそこの看護助手等から受けたということ自体は、特に異とするに足りず、右認定判断を左右する資料とはならない。

以上の次第で、中材室の業務には看護婦としての業務があり、他に控訴人と被控訴人との間に雇傭契約上就労部門に関する別段の約定があるとの主張、立証もないので、控訴人にその同意を得ないで中材室勤務を命じた本件配転命令の意思表示を、控訴人、被控訴人間の雇傭契約に違反する無効のものとすることはできない。

(小河 内田 野田)

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